留学までの過程1 留学するかしないかってどうやって決めたの?

留学

留学先を探す前にまずは、そもそも留学は何のためにするのか?からですね。

本当に留学する意味はあるのでしょうか?

これに関しては、ネットを探せば山ほど出てくるし、本にもたくさん書かれています。

そして、あたかも最初から決まっているかのように、基本的には留学した方がいい、と結論はなっています。Twitterなどには反対意見もたくさん出てきますが、そのようなものは断片的でしっかりと根拠を添えて詳しく解説したものは見かけません。

留学してその後に成功した人間が、留学した方がいいと言ってもバイアスがかかっていてあてになりません。そして、留学後の体験談は、多くの場合記憶がすり替わって後付けになっていたりします。

(事実、周りの留学経験者に聞いても、いい思い出はよく覚えているようですが、大変だったことは忘れていたりします。(笑))

留学のメリット・デメリットを一般化するのは難しく、最終的には個々人が判断することになるのなるのだと思います。個人的には、留学したいと思っていてかつできそうなチャンスがあれば、積極的に挑戦するのもいい選択肢だと思っています。ここでは私が実際にどのような経緯を経て留学しようと思ったのか、を書いていこうと思います。

留学を最初に意識したとき

私が留学を最初に意識したきっかけは、研修医1年目で指導を受けた先輩がアメリカへの臨床留学を目指していたことです。

つまり、“とても優秀で英語もペラペラな先輩“と“留学“がリンクして、留学=かっこいい、と思い込みました。私にとっての留学は憧れから始まったのです。

そして、医師になってから3年目で、幸運にも1ヶ月間アメリカの臨床現場を体験する機会に恵まれました。

フィラデルフィアでの1ヶ月間はとても刺激的でした。一番の思い出は、滞在した寮に文字通り世界中からアメリカで成功しようと留学生が集まっていて、毎晩ワイワイやっていたことですね。私は彼らほどは英語が堪能ではなかったのと、元々大勢の中で会話に入っていくことがあまり得意ではないので、言葉数は少なかったですが、それでも楽しむことができました。

海外旅行が好きだったこともあり、いつかは海外に住んで働きたい、と漠然と思うようになりました。

留学を本格的に意識したとき

ただし、現実は甘くはありません。アメリカへの臨床留学するためには、アメリカの医師試験に合格する必要があります。不勉強で学生時代に全然準備をしていなかった私には、忙しい研修医や後期研修医生活の中で受験勉強を並行することはできませんでした。

そうこうしているうちに、医師として働いて9年が過ぎました。飽きっぽい私はこのまま一生病院で医師として勤務して過ごすのは何となく物足りないと思うようになっていました。また時を経るごとに、成長曲線が鈍くなっていることを感じました。

当時、私は大学病院で任期のない助教(つまり教員)という立場でした。

臨床研究はいくつかやって論文も書きましたが、当然強いインパクトがある研究はできません。でも大規模な臨床試験を率いる経験も自信もない。

そこに、かつての憧れだった海外留学も頭にもたげます。

今の自分には今更、臨床留学をする意義はあまりない。

基礎研究やってみれば、新しい世界が広がるかもしれないし、あわよくば留学につながるかも。

ということで、助教のポジションを捨てて博士課程の学生になりました。

最初の2−3年は初めてやる実験で苦労ばかりで、留学に向けて具体的に動き始める余裕はありませんでした。

ただ博士課程の3年目が終わるころに、はたと思いました。

あと1年で卒業(のはず)だけど、その後どうしよう。留学したいと思っているけど、何の準備もしていないぞ・・・。とりあえず、行動しなければ絶対にできない。でも本当にできるのか、そもそもする意味あるのか・・・。

まずは実験の傍ら、情報を集めることにしました。

参考にした情報

  • Webページ
  • 知り合いの話

まずは本を探しました。読んだ中でお勧めを紹介しておきます。

研究留学のすゝめ! 〜渡航前の準備から留学後のキャリアまで UJA: 海外日本人研究者ネットワーク編集、羊土社 (2016/12/4)

これはもう定番の本ですね。この本の執筆で中心的な役割を果たした佐々木敦朗先生のお話を実際に聞く機会もあったので、親近感が湧く本でもありました。

留学準備から終了後のキャリアまで、全体像を知るには最適だと思います。

ただ、どうしても多岐にわたる内容になってしまい、一つ一つの項目はそこまで詳しくはありません。この本で概要をつかんでから、個別のトピックを調べていくのがよいと思います。

優雅な留学が最高の復讐である 島岡要、医歯薬出版 (2015/9/15)

留学の意義をもう少し深く考えたいなら、島岡先生の本がお勧めです。

正直に言うと、なかなか回りくどいです。手早く留学の情報を得たい人には向きません。

でも、留学は人生における一大決断であり、迷わず選択する人ばかりでは決してないと思います。様々な考え方をふまえて、自分の思考の軸を作ることは私は有意義だと思います。

この本の中で自分が一番参考になると思った意見は、今は競争力のない”普通の人”ほど留学する意義がある、というところです。本当に優秀な人はどこにいても良い仕事ができます。でも平凡な人間は、特に海外に出る人数が減っている今こそ、日本にいるだけでは得られない経験を得ることで人生の選択肢が増える可能性があります。

海外で研究者になる-就活と仕事事情 増田直紀、中央公論新社 (2019/6/18)

これは留学というよりは、海外で独立して研究室を主宰するための本です。でも、海外の大学がどのようなシステムで回っていて、そこで研究者として独立するためには何を求められているのかを知ることは、海外で学位を取るなりポスドクをする上でも重要だと思います。

Web page

他はインターネットでも検索しました。ただ、細かいことは色々調べられますが、そもそもの留学についてどうするかの大きな決断には参考にはしませんでした。見るとすれば・・・

海外日本人研究者ネットワーク(UJA)のホームページ

上で紹介した、研究留学のすすめの編集も行っていた団体ですね。こちらには色々な体験談が載っています。ただ一つ一つはそこまで詳しくはありません。

Twitterも情報集めには有効です。特に私はこの後の留学先を具体的に探す段階で役に立ちました。ただそもそも留学するかどうかという大きな決断をするための拠り所としては、断片的なのと信頼できる情報とは限らない、という点がデメリットかもしれません。そもそも私は留学を考えてから初めてアカウントを作ったので、元々このようなSNSを使いこなしている人ならもっと上手に活用できるのだと思います。

知り合いの話

個人的には、一番はやはり様々な留学経験者に直接話を聞くことがよいと思います。自分のことを知っている人なら、個別の具体的なアドバイスをくれるかもしれません。

留学を考えているなら、早いうちに相談に乗ってくれそうな人を見つけておくのは大事だと思います。私の場合は、

  • 臨床をやっていた時の上司
  • 大学院時代の研究室や同じ施設内の先輩・同僚
  • 大学院時代の指導教官
  • 大学院時代の共同研究者

に相談に乗っていただきました。複数の立場・年代の人から話を聞くのが重要だと思います。留学して成功して既に教授になった人と、今まさにポスドクとして留学して苦労している人では視点が違います。医師の場合は臨床寄りの人か基礎寄りの人かでもスタンスが異なったりします。私は医学・生物学分野で研究をしているMD、non-MDの両方の立場の人から話を聞きました。そして当たり前ですが、あくまで決断するのは自分だ、というのが大事だと思います。行ってみたら聞いていたことと違う、ということも起こりえます。後悔しないためにも、人に言われてではなく自分で決めたという意識があった方が良いと思います。

自分が考えた留学しようとする意義

自分が留学しようと動き出した時点で考えたことは

  • 海外で仕事や生活をするという経験ができる
  • 家族にも良い経験になる(はず・・・)
  • 研究者ネットワークが広がる
  • 面白い研究ができる
  • 良い留学先を見つけられればそれは留学に縁があったということに違いない
  • 英語も多少は上手になるかな

渡米後1年の時点ではこれらの考えは当たっていたと考えています(英語の上達は思ったより遅いですが・・・)。加えて感じたことは

  • 現地に滞在する日本人と濃密な繋がりができる
  • 自分はアジア人だと思い知る
  • 日本もいいところがたくさんあると再確認できる

という点があります。異国の地で知り合う日本人は、日本にいる時よりも仲間意識が強くなり濃密に関わることができます。しかも海外に飛び出した多彩な人たちと出会うことができます。これは想像以上に良かったです。

そして同時に同じアジア出身、特に韓国や中国から来た人たちは欧米の人よりも文化的な背景が近いと肌で感じます。同じ東アジアの中にいると違いばかりに目が行きがちですが、こちらにいると共通点を知り共感しやすくなります。

少なくとも私の周囲では日本は良い印象を持たれています。秩序立っていて、美しくて、食事がおいしい、アニメなども面白いと。同時に年老いていて女性には厳しいとも思われていますが。いずれにしろ、よく言われることですが外の視点から日本を眺めることは日本人として意味のあることだと思います。

何をもって留学して良かったとなるのか?

これはその人の価値観によって変わるので一般化することは難しいかもしれません。おそらく留学するからには何か達成したいものがあって、その目的を果たせば「成功」と言えるでしょうか。

例えば一流誌に論文を載せることを目標としている人もいるでしょう。独立したポジションを得て自分の研究室を持つところまでが目標の人もいるかもしれません。以前は履歴の箔付け目的もあったようですが、今はどうなんでしょうか。一方で医師の中には子どもたちに海外経験を持たせつつ、家族との時間を増やすために一定期間海外で暮らすためという人もいます。

私もまだ渡米して1年も経っていないためこの選択が良かったのかは後になってみないと分かりません。

ただ少なくとも今の時点では渡米したことは何も後悔はしていません。

ひとまず、私自身が留学前にアドバイスを受けて今も心に留めていることは、以下の3点です。

  1. 無事に帰ってくる
  2. 海外生活を自分も家族も楽しむ
  3. 幸運に恵まれればいい仕事が出る

1だけでも無駄にはならない、2までできれば成功、3まで達成できれば大成功という感じでしょうか。

まとめ

留学を目指すきっかけは人それぞれだと思いますが、私自身は海外生活への憧れのような部分も大きかったように思います。

参考にした情報源は主に書籍と留学経験者・留学中の知り合いでした。

留学の目的は人それぞれですが、何かしら自分の中でまとめて言語化しておくのはいいことじゃないかと考えています。

他のトピックについては別の記事でまた書いていこうと思います。

留学までの過程0 そもそも留学とは?

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