再発難治T細胞リンパ腫患者さんにおける適切な移植方法は?Leukemia誌掲載論文の紹介

研究

大学院での臨床研究のサブプロジェクトが、基礎研究のメインプロジェクトよりも先に論文になりました。

Physician-Scientistを目指していると言っていますが、その中でPhysicianとしての研究です。

この研究で、私たちは再発難治T細胞リンパ腫に対して移植方法を選択する際には、初回治療への感受性や移植時の病期を考慮することが重要であることを示しました。

Autologous or allogeneic hematopoietic cell transplantation for relapsed or refractory PTCL-NOS or AITL - Leukemia
Fit patients with peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified (PTCL-NOS) and angioimmunoblastic T-cell lymphoma (AITL) in relapsed or refractory (R/R) d...

論文の概要

研究の背景

悪性リンパ腫の一種であるT細胞リンパ腫は、B細胞リンパ腫と比較して治療が効きにくく、治りにくいことが知られています。特に、初回治療での効果が不十分だった再発難治T細胞リンパ腫は非常に治療成績が悪いです。

再発難治T細胞リンパ腫は、多くの場合には抗がん剤だけでの治癒は難しく、若くて元気な患者さんには移植という方法を組み合わせて治療します。移植治療には、自分自身の造血幹細胞を使う自家移植と、他人の造血幹細胞を使う同種移植があります。

自家移植は自分自身の細胞を使うため安全性は高いのが特徴です。

同種移植は、他人の細胞を使うため移植片対宿主病(GVHD)による合併症のリスクが高まりますが、同時にドナーさんの免疫の力でがん細胞を殺すことも期待できます。

しかし、自家移植と同種移植のどちらを選択すべきかについては、まだよく分かっていません。

そこで私たちは、日本造血・免疫細胞療法学会のデータベースを用いて日本全国で行われた再発難治T細胞リンパ腫への移植成績を解析しました。

研究の結果

その結果、初回治療抵抗性でかつ救援療法でも治療効果が不十分だった患者さんや、初回治療で1度完全奏功を得たものの再発し救援療法で一定の効果が得られた患者さんでは同種移植を選択するのが良い可能性がある、ということが分かりました。

逆に初回治療抵抗性でも救援療法で完全奏功が得られた患者さんでは自家移植を選択するのがよいかもしれません。

年齢が高い(ここでは60歳以上)患者さんでの同種移植はデメリットも大きく慎重に検討する必要があります。

そしてT細胞リンパ腫の中でも血管免疫芽球性T細胞リンパ腫は同種移植の効果が期待できる可能性がありました。

論文のまとめがNature PortfolioのBehind the Paperというチャネルに掲載されているので興味ある方はご覧ください。

研究のまとめ

  1. 再発難治T細胞リンパ腫への移植方法は患者さんの状態に応じて検討が必要
  2. どの化学療法にも抵抗性、もしくは再発後の救援療法が奏功した方は同種移植の良い候補
  3. 年齢やリンパ腫のサブタイプも、移植方法を決める上で考慮すべき事項である

Behind the “Behind the Paper”

さて、この論文の裏話を少し。

研究を始めるきっかけ

上で偉そうにPhysician-ScientistのPhysicianとして出した研究と言いましたが、実際には最初から計画的に臨床研究と基礎研究を並行して行ったわけではありません。

大学院入学当初は基礎研究にどっぷりでした。

ところが、大学院3年目になった時に、諸々の事情により外来や診療に関係した業務をやる必要が出てきて、実験に割ける時間が減ってしまいました。

どうしよう・・・

そこで、小賢しく考えました。

隙間時間でもパソコンさえあれば進められる臨床研究をするしかない。1年ぐらい前に、造血免疫細胞療法学会のワーキンググループに入ったけど幽霊部員だったから何かやってみよう!どうせやるなら、基礎研究で成熟T/NK細胞腫瘍をやっているので、関連のものがいいな。やるからには、直接診療に役に立つテーマを選びたい!

ということで、他の人たちの研究テーマを見てみました。

当たり前ですが、めぼしいテーマはほとんどやられてしまっている。いくつかやりたいテーマはあったのですが、グループの責任者に聞くと、既にやはり手をつけている人がいて、今からはできないと。

苦し紛れに3番目ぐらいに思いついて、競合がなかったので手をつけることができたのが今回のテーマでした。

研究をやり始めてから

そこからもしばらく苦難は続きます。グループに研究テーマの提案をすると、メーリングリストでは多くの批判(非難)が届きました。なぜあのような言い方をされたのかはいまだによくわかりません。私が学会のグループで研究をするのが初めてで、しかも大学院生だったからでしょうか。

ただ、その中でもとても勉強になる助言をくださり、サポートしていただけそうな先生方が何人かいました。今回はそのような先生方に共著者に入っていただき助けていただきながら、研究を完成させることができました。

個人的な感覚としては、10-20%ほどが反対し、10-20%ほどが支援してくれて、残りは中立的というところでしょうか。

解析を終えるまで約半年、そこからヨーロッパ血液学会と日本血液学会に応募しつつ論文執筆に取り掛かりました。ヨーロッパ血液学会では何とoral presentation (全応募演題の上位10%未満)に選ばれました!

論文掲載までの変遷

これは順調だ、と思ったのですが、その後はやっぱり甘くはありませんでした。

日本血液学会でもPlenary sessionというその年の最重要発表の候補となったのですが、、、

最終選考で落選!

次に論文投稿では、血液内科医なら誰でも知っている有名な学会誌に投稿して、なんとrevise(修正すれば掲載を検討)という返事をもらいました。本当に骨の折れる修正要求に何とか答えようと頑張ったのですが、修正原稿を編集者に送ったら、、、

reject(掲載却下)!

これ以上の修正なんてできへんわ!この掲載却下は本当に落ち込みました。

捨てる神あれば拾う神あり

却下された直後は、もう雑誌のランクを下げて早く終わらせたいと思いました。ただしばらく考えて、周囲の人や共著者とも相談して、やっぱりもう少し粘ってみることにしました。

血液内科で次に有名な雑誌はLeukemia誌です。

うーん、これも敷居が高い。周りに聞いても、通常は即却下されると。

工夫なく投稿すると、また苦戦する可能性もあったので、カバーレターへその前の雑誌での掲載却下までの過程を詳細に記載してみました。

すると・・・

なんと数日で終わるわずかな修正のみで掲載可能との返事

今までは、以前に掲載却下された場合にその過程を次の投稿でカバーレターに記載したことはなかったのですが、時には有効であることを知りました。

この研究を通して学んだこと

この研究は、最初はやむを得ず、苦し紛れで始めたものでしたが多くの学びがありました。

  1. やり尽くされているように見えても、必死で考えると見逃されたテーマが隠れている
  2. 初めて大きなグループの中でアイデアを提案すると、反発に合う可能性がある
  3. 一方で、新しいアイデアを提案したら、助けてくれる人もいる
  4. そして、新しい提案をすることで良くも悪くも様々な意見をいただいて勉強になる
  5. 心折れそうになっても、もう少し頑張るといいことがあるかもしれない
  6. 結果的に研究が形になれば、自分の業績が増える(当たり前だけど重要)

新しいプロジェクトをやるたびに学びがあり自分が成長できることを実感しています。進める速さは人それぞれですが、ひとまずやってみることが大事なのだと思います。そして、最初はよく分からない部分があってもとりあえず手を挙げてやってみることで、新しい道が開けるということを今回も強く実感しました。

特に今回のように、メインプロジェクトが手こずっている時にどのような形でありサブプロジェクトを持って、それが形になるのは、精神的な安定としても大事です。途中からでも、サブプロジェクトを持っておくことは多くの人に勧めたいです。

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