留学までの過程0 そもそも留学とは?

留学

2022年8月の渡米からしばらく時間が経ち(執筆時点で2023年7月)、留学までの過程を振り返っておこうと思いました。

留学した方がよいと、よく言われます。特に留学で業績を挙げてその後で偉くなった先生たちは、そう言います。

本当にいいのでしょうか??

もちろん、私はしたいと思っているから留学します。そもそも留”学”という言葉が正しいのか、にも疑問がありますが、いちおう留学としておきます。ここでは具体的なメリット・デメリットの前に留学とはどういう意味かを、まず考えてみます。

1. “留学”の定義

日本大百科全書によると、”留学”という言葉の定義は

外国の学問・芸術・技術・制度などを摂取するために、比較的長期間にわたって外国に在留し、大学等の教育機関や研究所で勉学または研究すること

日本大百科全書(小学館)

とあります。

そして目的からは

先進文化吸収型と異文化理解型に分けられています。

2. 先進文化吸収型

より優れた文化を吸収することを目的とした、遣隋使などから続く伝統的な留学と言えます。明治時代以降の研究における留学は、欧米へ追いつき追い越せのまさに大本命として先進文化吸収が目的だったと思います。

この21世紀ではどうでしょう?少なくとも私がいる基礎医学研究では日本にも素晴らしい研究者は何人もいらっしゃり、国外でしかできないことはあまりありません。しかし、かつてより日本の研究力は上がったものの、最近はむしろ低下が心配されています。そうでなくてもより裾野が広い海外の方がその分野の第一人者が見つかりやすいということはありえると思います。それ以外に規模の違いなどによって、日本でもできるけれども海外の方が行いやすいプロジェクトはあります。

最先端の研究を吸収するという要素は依然として存在していると言えそうです。

3. 異文化理解型

異文化理解、そしてそれを進めた異文化交流・ネットワーク形成に関しては、渡米後の実感としては現代においても非常に重要だと思っています。研究に限った話でも、少なくとも私の分野では欧米を中心に医学研究は進んでおり、研究発表する学会も出版を目指す雑誌も母体は欧米の団体がほとんどです。好むと好まざるとに関わらず、彼らが決めたルールの上でゲームをプレイする必要があります。科学研究は論理的で、客観的に評価されるという意見もあるかもしれませんが、個人的な印象としては、むしろ前例がない先進的な研究内容ほど真実かどうかを判断するのが難しくなり、主観の入り込む余地が大きいように思います。後にノーベル賞を取るような素晴らしい研究成果がNatureなどの一流誌への掲載を拒否されることは珍しいことではありません。一流誌の編集者は膨大な数の投稿論文から掲載する価値がある研究を毎日ふるい分けている目利きですが、彼ら彼女らをしてもノーベル賞クラスの研究を見抜くのは容易ではないのです。

では先進的な研究が受け入れられるのか、埋もれるのかは何が分けるのか。それには研究者コミュニティの中でどれだけネットワークを形成して、認知されているかが大きく影響するのではないかと思います。

それ以外には、ノーベル賞級でなくても共同研究はもちろん重要で、日本の中だけでやるよりも世界中のネットワークをもっている方が当然幅が広がります。多くの場合にはまず知り合いの中から共同研究者を探していくので、日本の中に閉じこもっているとネットワークに入ることができず機会を失っていきます。

日本でしっかり成果を挙げてそれから海外学会で発表して交流すればいいという意見もあるかもしれません。極論としては、本当に優秀な人はどのようなやり方でもうまくいきます。でも私のようにそうでもない人間にとっては、一度海外に出るのは人生の選択肢を増やすのに有効でしょう。海外に出るタイミングはそれぞれだと思いますが、渡米後の実感としてはポスドクよりもPhD studentで渡米した方がよりどっぷり現地ネットワークに入れますし、PhD studentに聞くと学部生から来ている人はまた全然違うと言います。個人的には私たちのような医師が研究留学をする時にはポスドクが最も入りこむ難易度が低いように思います。

4. 就労目的

加えて、「留学」と書きましたが実際には周りを見ていると「就労」に近いスタンスの人もたくさんいます。ポスドクで渡米する時にはJ1ビザでくる人がほとんどだと思いますが、これは非移民ビザで終了後は母国へ戻ることが前提になっています。でも周りにはJ1 -> H1B -> Green cardで永住権を目指そうとしている人も何人もいます。昔と比べて増えているのかどうかは分かりませんが、研究をする上で日本よりもチャンスが多いと思っている人はいます。

学生の短期の語学留学など以外は、多かれ少なかれ単純に学んで帰るだけではなく、その先の就労の可能性も、少なくとも頭の片隅には入れていることが多いのではないかなと思います。

5. まとめ

  • 先進文化吸収型:海外の先端的な研究を学ぶ。従来はこちらが大きかった。
  • 異文化理解(交流)型:広い意味でここに一番意義があると思います。
  • 就労目的実際には2−3年という一時的なものではなく、その先のポジション獲得を目指している人も少なからずいます。

具体的なメリット・デメリットなどはまた別の記事で書いていこうと思います。

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